経営者の役割 C.I.バーナード

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本書は8回行った講演の原稿に加筆、拡大したものだ。

 本書は、1937年11月、12月にボストンのローウェル研究所で8回にわたっておこなった同名の講演の原稿に加筆、拡大したものである。

 このような努力を展開させた観点を知っておくことは、しばしば読者にとってなにかの助けになるものである。だから私も本書を著わすにいたった事情を簡単に述べておけば、興味があるかもしれない。私がおくればせながらカードゾー判事のエール大学講演「法過程の本質」を読んでいたときに、A・ローレンス・ローウェル博士の光栄ある依頼がきた。「組織」というもののなかでの専門職能である管理過程に関して、私が数年間徐々に構想していた仮設を整理して述べてみようという気持ちになったのは、実はこういう因縁であった。

 この職能を適切に記述しようとすれば、その記述は組織そのものの本質に即したものでなければならない。私はその前年に組織理論の一部を、他の学者による研究を刺激するつもりで概説しようと試みていた。当時ハーバード大学経営学大学院長ドーナム氏およびその協力者ーーキャボット、ヘンダーソン、メーヨーおよびホワイトヘッドの諸教授ーーから与えられた関心と援助がなければ、おそらく私はこの分野において一つの論文も試みなかったことだろう。



組織化に堪能な人々がもつ生きた理解、評価、考え方。

 質問者は、組織の本質的問題を論ずるに当たって、もしそれぞれの分野の専門的用語にこだわらずに質問が述べられさえすれば、わずかの言葉で相互の考えを理解することができる。それは私のしばしば見たところであり、驚くほど真実で、主としてまったく異なる分野の人々がこういう問題を論ずるときに事実みられることである。それは組織体系の共通用語や一般研究の結果ではない。きわめて最近まで、これを理解する共通の地盤となるような文献はほとんどなかったし、たいていの上級管理者たちはそれを知りもせず、たいした関心ももたなかった。

 のみならず、実際問題としてでなく、理論的問題として考えると、議論がそれぞれの専門分野からの実例に逆もどりするや否や、共通の理解というものはたちまち消えうせてしまうのである。しかし牧師、軍人、官吏、大学職員やさまざまの実業人たちが、もし、そのような仕方で組織を論ずる気にさえならなければ、だれも同じような理解ーーむしろセンスーーを示すように思われた。現在のみならず過去数世代にわたって、組織化に堪能な人々がもっている生きた理解、評価、考え方にみられるような組織の一般的特徴というものがある、そして綿密かつ賢明な観察者や学徒ならそれを知っているだろうと、私は前から考えていた。



いかなる種類、性質の力が、どう作用しているか知る。

 ところが私の知るかぎりでは、私の経験に合致するように、あるいは管理実践や組織のリーダーシップに練達だと認められた人々の行為のうちに含まれる考え方に合致するように、組織を取り扱ったものは一つも存在しない。なるほど組織の外見的特徴を叙述、分析した優れた著者がないではない。それも重要であるが、しかしそれは物理学、化学、地質学や生物学を欠いた地誌のごときものにすぎない。管理職能を理解するためには、組織の地誌や製図法以上のものが必要であろう。いかなる種類、性質の力が、どのように作用しているかを知ることも要求されるであろう。

 そればかりではなく、社会学者、社会心理学者、経済学者、政治学者および歴史学者は、私のみるかぎり、このような諸力から生じた多くの現象を叙述し、ある種の説明を加えてはいるが、彼らの間には見解の一致がほとんどない。社会科学者たちはつねにーーいずれの研究方法をとるにせよーー私の経験した組織の一角に取りついただけで、それから引き返してしまったように思われる。彼らの叙述している現象の少なくとも大部分の基底にある調整と意思決定の過程を感得しているものはまれである。

 もっとたいせつなことは、公式組織が社会生活の最も重要な特徴であり、また社会そのものの主要な構造的側面であることがあまり認識されていない点である。民俗、風習、政治構造、制度、態度、動機、性向、本能などは詳しく論じられたが、一方の社会研究の一般理論と、他方のそれに関連する大衆の行動との間に橋渡しがないように思われるのである。

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